歸郷について

学生時代に私は「歸」という詩に出会いました.中原中也さんの詩を私に紹介するために,友達が詩を手書きで写してくれました.

歸郷  中原中也 柱も庭も乾いてゐる 今日は好い天氣だ 椽の下では蜘蛛の巢が 心細さうに搖れてゐる 山では枯木も息を吐く あゝ今日は好い天氣だ 路傍(ばた)の草影が あどけない愁みをする これが私の故里(ふるさと)だ さやかに風も吹いてゐる 心置なく泣かれよと 年増婦(としま)の低い聲もする あゝ おまへはなにをして來たのだと…… 吹き來る風が私に云ふ

20年前の話ですが,当時にいただいた手書きの紙を大事に保管しています.それほど共鳴しています.故郷は,具体的な場所よりも心の中に存在していると考えたほうが安心する私.育った町に実際に旅行することを「帰郷」とは呼びにくいわけです.